はじめに
精神障害や自殺に関する問題について、2011(平成23)年に導入された「心理的負荷による精神障害の認定基準」に基づいて、労災認定が行われてきました。しかしながら、社会情勢の変化や新たな医学的知見を考慮し、厚生労働省は最新の認定基準を見直し・発表しました。今後は、この改定された基準に基づいて、労災の補償が行われることになります。以下、改正の要点を詳しくご説明いたします。
認定基準改正のポイント
【1.業務による心理的負荷評価表の見直し】
実際に起こった業務に関する事例を「具体的な出来事」として考慮し、その負担やストレスの強さを評価するための表(心理的負担評価表)が見直され、新たな出来事の追加や似たような出来事のまとめ合わせなどが行われました。
追加となった項目
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さらに、心理的な負担の強さを「強」「中」「弱」と評価する際の実例が増えました。具体的には、パワーハラスメントの6つのタイプすべてにわたり、性的指向や性自認に関連する精神的な攻撃なども含まれることが記されています。また、以前は特定の強度にしか言及されていなかった具体的な出来事についても、異なる強度の具体例が詳細に示されました。これにより、パワーハラスメントと労働災害の因果関係を調査するための指針がより具体的で明確になりました。
【2.精神障害の悪化の業務起因性が認められる範囲を見直し】
改正前の基準では、通常、6か月以内に「特別な出来事」(特に強い心理的負荷となる出来事)がない場合、業務が原因であるとは認められなかった部分について、今回の改正により、悪化前に特別な出来事がなくても、「業務による強い心理的負荷」によって悪化した場合、業務が原因であると認定されることが示されました。
この改正により、精神的な健康問題に関連する労災認定の範囲が広がることとなり、労働者の保護が向上する一方でしょう。
【3.医学意見の収集方法を効率化】
自殺事案や心理的負荷が「強」かどうか確定しづらい事例については、以前は専門医3人の意見が必要でしたが、改正により「特に難しい場合を除き、1人の専門医の意見だけでも決定できる」ようになりました。
このことから、労災認定のプロセスがよりスムーズに行われるようになる意図があるでしょう。
精神障害の労災認定
ちなみに、精神障害が労災として認定されるためには以下の条件が必要です。
(1)認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6ヶ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること(ただし、状況によっては6ヶ月以内に限らない)
(2)業務以外の心理的負荷や固体側要因により発病したとは認めないこと
(3)認定基準の対象となる精神障害を発病していること
今回のより詳細な改正により、精神障害の労災申請が増加する可能性があるかもしれません。