はじめに
「イケア・ジャパン」という家具小売大手の企業が、従業員の着替え時間について賃金を支払っていなかったという報道があり、話題となりました。掃除や朝礼・終礼などと同じように、着替え時間が労働時間に含まれるべきかどうかについて、このイケアの出来事を通じて注目されています。今回は、この重要なテーマについて詳しく解説してみましょう。
イケアで起きたこと
これまでのことですが、イケア・ジャパンでは、店舗での勤務に際して、会社が指定した制服に着替えることが求められていました。ところが、この「着替え時間」は、労働時間として計算されていなかったのです。イケアの場合、シャツ、パンツ、そして靴などが、会社から指定されていたようです。
ところが、2023年9月からは、着替えるための時間を、出勤時と退勤時にそれぞれ5分ずつ計算し、1日の労働時間に10分としてカウントすることになりました。
着替え時間の金銭的影響
10月以降の最低賃金全国加重平均額、つまり「時給1,004円」を基に、今回の変更が年間に与える金銭的な影響を試算しますと、次のような結果になります。
時給1,004円×1日10分×月20日×12ヶ月=40,160円 |
1日たったの10分ですが、年間を通してみればそれなりの影響が出ます。別の言い方をすれば、着替え時間に賃金を支給していない場合、100人の従業員がいる会社は年間約400万円の「未払い賃金リスク」を抱えていることになります。
労働時間となるか否かの判断基準
着替えの時間が、いつも労働時間に含まれるわけではなく、「会社の指示の下で行われているかどうか」によって判断されます。着替え時間が労働時間とみなされる可能性を高める要因には、以下のものがあります。
- 制服の着用ルールに従わない場合に罰則が設けられている
- 通勤時に制服の着用を禁止している
- 就業規則等で制服着用を義務付けている
- 安全面や衛生面から着替えを必要としている
- 会社が着替え場所を指定している
また、労働者の都合で着替えが必要な場合(例えば、運動着からスーツに着替える場合など)、その時間は通常の労働時間には含まれないと考えられます。
ルール変更のタイミング
イケア・ジャパンは、「着替え時間について、関連法令にはっきりした規定がなく、判例も曖昧な部分があるため、現場での理解が分かれている点を解消し、従業員にとって有利な方向で明確な方針を採用することにしました」との見解を示しており、過去の支払いについて遡及するつもりはないようですが、実際にはこれに関連する過去の支払いにはリスクが伴います。
「営業前の掃除時間」「着替え時間」「朝礼時間」などは、よく未払い賃金の訴訟の焦点となり、適切に進めない場合、以前の未払い賃金の問題を引き起こしかねないことから、ルール変更の検討は慎重に行うべきでしょう。
タイムカードの打刻について
イケア・ジャパンは、「着替える前にタイムカードを打刻する」の代わりに、「一律で1日10分を加算する」という方針を導入したようです。この着替え時間を10分と明示することは、管理上でも、労働者側の納得度においても、良い妥協点の一つと言えるでしょう。