はじめに
ご承知の通り、日本ではこれまで他の国に比べて企業側の雇用解雇が厳しい規制を受けてきました。この厳格な雇用規制は雇用の流動性を制約する一面もありますが、グローバルな環境の変化により、最近では解雇や人員整理を認める判例も増えてきました。今後、解雇の取り扱いが柔軟になっていくのかについて考察いたします。
解雇の妥当性を争う場合のポイント
【1解雇権濫用法理】
労働契約法の16条には、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と記載されています。この「合理的な理由」とは、一般的に「能力や協調性の不足」のような事情はあまり認められない傾向があり、逆に、明白な不正行為や無断欠勤などの違反行為については解雇が認められやすいと言われています。
【2整理解雇の4要素】
事業が縮小したり組織が再編される際の解雇は、「整理解雇」と呼ばれています。整理解雇の適正性は、以下の4つの要件によって評価されます。
①人員整理の必要性 | 経営上の理由があるか |
②解雇回避努力の内容 | 解雇を回避するための策を会社が講じたか |
③対象者選定の合理性 | 人選基準が合理的かつ公平であるか |
④手続きの妥当性 | 説明や協議を十分に行ったか |
要するに、将来の解雇の手法は、先述の1つ目の「合理性」「社会通念上の相当性」や2つ目の「4つの要件」が広く受け入れられるかどうかが鍵となります。
「解雇権濫用法理」の今後
まず第一に、労働契約法16条の「社会通念上の相当性」という側面については、実際の社会の変容(グローバル化、終身雇用の変化、ジョブ型雇用の広まりなど)に合わせて、今後はより一般的に認められる方向へと変化していくでしょう。
それに加えて、「客観的合理性」についても、ジョブ型雇用の概念が広がるにつれて、「職務遂行能力が不足している場合」が合理的な理由として受け入れられることが増える可能性があります。
簡単に言えば、採用や労働契約の際に、どれだけ明確で公正なルールを設けて運用するかが、解雇の合理性を判断する鍵になると考えられます。具体的には、仕事に求められるスキルや責任を数値化し、不適切な行動をリスト化するなど、客観的な人事評価制度や職務の定義を整備することが重要でしょう。
「整理解雇4要件」の今後
高度経済成長期やバブル崩壊前には、整理解雇は相当に厳格で、この4つの要件を満たしていても「少なくとも一人の雇用を確保できるはずだから解雇は許されない」という理不尽な判決があったとされています。しかしながら、最近の社会の変化により、整理解雇の規制もゆるやかに変わっていく可能性が考えられます。
ただし、急激にアメリカ式のレイオフが許容されるような大転換は予想されないため、解雇回避努力(経営陣の報酬削減や、人事異動、報酬体系の改善など、解雇を避けるための様々な試み)は今後も重要なポイントとなるでしょう。